世界標準の3ミニッツ、ノーデータ、ストーリーテリング

1.観光映像祭で学べるもの
観光映像祭は文字通り“祭”なので、映像祭のコンセプトに合わせて観光映像の上映と表彰式以外にも様々なイベントが開催されます。応募した映像がノミネートし、映像祭に参加した作家たちは最終日に設定される授賞式まではわくわくしながら毎晩開催されるレセプションや開催地の観光地をめぐるエクスカーションに参加することになるでしょう。ただ、これらは単なる観光ではなく(もちろん観光映像祭なので観光も重要な行動なのですが)、参加者との交流の大事な機会となります。各国の観光映像の出展があるので大使館関係者や国連関係機関の広報担当の方々、また世界の観光事情を知りたいと来場する観光のジャーナリストたち。観光映像祭の代表をつとめる私のような立場だと来場する映像作家たちに自分たちの映像祭への応募をお願いするプロモーションの場となります。

ポルトガルの観光映像祭ART&TURの場合だと主催者であるフランシスコ・ディアスさんは大学研究者であることもあり、映像上映の他にも観光学や観光映像について分析やそれらを議論するシンポジウムの開催も行われます。2018年に参加した時、観光映像のこれまでの歴史を分析し、現在の観光映像の傾向について議論する興味深いシンポジウムセッションがありました。そこでは当時の観光映像のトレンドを3ミニッツ・ノーデータ・ストーリーテリングだと結論づけていました。

ART&TUR で開催されたシンポジウム風景

2.3ミニッツ・ノーデータ・ストーリーテリング
観光映像の使い方はそれぞれです。駅構内にある大きなモニターで常時映し出すものもあれば、DMOのホームページのトップに置き、観光地のビジュアルイメージを伝えるためのものもあります。ただ、観光映像祭に応募されてくる映像の主たる目的は、WEB空間にいる人々に“偶然に”見てもらい、“少しの時間”でも映像を見てもらい、次の目的先の候補として“選択肢に加わる”ことです。

現在、多くの観光映像祭では審査する観光映像の尺は長くて15分までと考えています。しかし、偶然に映像に出会った人には15分は長すぎる。その適度な尺は3分である。それが3ミニッツです。

観光映像は、その観光地に行くことを決めていない人を対象としています。行くことを決めていたら当然ながら3分どころかしっかりと時間をかけて観光資源であったり費用を調べたりするでしょう。ここで必要なのはイメージです。データではありません。昔ながらの観光映像だと施設の紹介に一つ一つ名称を入れたり、入場料をテロップで入れたりしますが、こういうのは調べればわかるので、映像には入れません。イメージによって視聴者の想像をかき立てること。これがノーデータです。

ストーリーテリング、これが解釈の幅も広く、難しいところですが、観光客自分自身がその観光地に行くことをどこかで想起できる仕組みのことを言うのだと思います。たとえば自分と同じような年齢の同性の人が旅をする、行きたい場所の趣向が近い。そうすると人は映像の登場人物に自己を投影し、その度が自分ゴトになります。登場人物がなぜその場所を訪れたのか、その自分語りをする映像もあります。これもストーリーテリングの一つの手法でしょう。

観光映像に関わる多くの人たちが交流する映像祭ART&TUR

3.観光映像祭が生むトレンドの重要性
現在はCOVID-19の拡大の中、観光動向は混乱の真っ只中です。ただ、ここまで観光映像が世界的に大切にされている理由は、遠隔地への広報、特に海外からの旅行者のためにあります。そのため、日本の観光映像のトレンドを追うだけでなく、世界的な潮流を読む必要があります。

3ミニッツ、ノーデータ、ストリーテリングは2018年にはすでに定着していたトレンドですが、この枠組みは変わらず、ストーリーテリングの手法がどんどんと進化している、そういう印象です。

上映会と授賞式以外に映像作家やDMO関係者がシンポジウムを行うのには、こういう背景があるのです。

執筆者プロフィール

木川剛志

日本国際観光映像祭総合ディレクター
和歌山大学観光学部教授

1995 年京都工芸繊維大学造形工学科入学。在学時よりアジアの建築、特にジェフリー・バワに興味を持ち、卒業後はスリランカの設計事務所に勤務する。2002 年UCL バートレット大学院修了。2012 年に福井市出身の俳優、津田寛治を監督として起用した映画「カタラズのまちで」のプロデューサーをつとめたことから映画製作に関わるようになる。監督として2017 年に短編映画「替わり目」が第9 回商店街映画祭グランプリ、2020 年にドキュメンタリー「Yokosuka1953」がReykjavikVisions Film Festival 最優秀長編ドキュメンタリー映画賞、Vesuvius International Film Festivalにて最優秀ドキュメンタリー脚本賞などを受賞。観光映像では須藤カンジを監督に起用しプロデューサーと撮影をつとめた「Sound of Centro」がART&TUR 国際観光映像祭でポルトガル観光誘客(都市)部門最優秀作品賞。2019 年より日本国際観光映像祭実行委員会代表、総合ディレクターをつとめている。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次