日中の学生が観光映像で交流

写真は泉州に向かう時に立ち寄った、厦門の市場の様子。活気がありました。

 日本国際観光映像祭は世界の優れた映像を日本に紹介し、日本の優れた観光映像を世界に届けることを目的にしています。そして、観光映像のこれからの発展のために、ファクトリーという形で観光映像の制作、発信も行なったり、観光映像の専門家が集い、語り合う場も用意しています。そして、大学教員としての使命も鑑みて、若者たちの育成も大切なことと考え、昨年度より、日本と中国の大学生の交流事業も行ってきました。ここではそこで生まれた日本と中国の映像を紹介します。

KIX泉州ツーリズムビューローと
和歌山大学の取り組み学生たちの「観光映像」交流

学生たちの「観光映像」交流がつなぐ日中の架け橋

大阪南部・泉州地域の観光地域づくり法人「KIX泉州ツーリズムビューロー」からの依頼を受け、和歌山大学観光学部・木川研究室では、数年前より中華人民共和国・福建省泉州市との国際交流事業を展開してきた。

この交流事業の特徴は、学生たちが互いの地域の魅力を映像で紹介し合うというユニークな取り組みにある。和歌山大学の学生は、大阪・泉州地域をテーマに観光映像を制作し、中国・泉州市の学生たちに向けて発信する。一方で、中国側の学生たちも、自らのまち・泉州市を紹介する映像を制作し、日本の学生たちに贈る。映像を通じた文化理解と地域交流を目的とした、次世代を担う若者たちによる実践型の国際協働プロジェクトである。

 和歌山大学では、KIX泉州ツーリズムビューローによる寄附講座「観光と視覚」の一環としてこのプロジェクトを実施しています。講義では映像制作の手法を学ぶだけでなく、大阪泉州地域でのフィールドワークや撮影活動も行い、学生自身が地域に深く関わりながら作品を完成させていきます。
 2023年度は、最終成果物である観光映像の交換をオンラインで実施。2024年度には、ついに対面での交流が実現し、和歌山大学の学生が中国・泉州市を訪問。現地で映像の上映を行い、制作者の一人も現地に同行しました。 
 これらの映像作品は、日本国際観光映像祭にも出品され、実際に入賞を果たすなどしています。

 2023年度、2024年度と2年にわたって継続してきた本プロジェクトですが、残念ながら今回をもって終了となる予定です。しかし、木川としては、ようやく対面での交流が可能になった今だからこそ、このような国際的な学生交流はさらに重要性を増していると感じています。中国と日本、それぞれの若者が互いの地域文化を理解し合い、尊重し合う、この貴重な経験を未来につなげていくためにも、プロジェクトの継続をなんとかできれば、と考えています。

 今回は、この準備期間の1年を含めて、合計3年間で行ってきた事業について振り返りたいと思います。

2023年

2023年度は、和歌山大学に加えて泉州地域の羽衣国際大学の学生たちも参加し、日本側では6本の観光映像が制作されました。上映会では時間の都合もあり、日中双方それぞれ3本ずつを選出し、オンラインでの上映となりました。

 会場は岸和田市にある「浪切ホール」の会議室を使用し、日本と中国の大学をオンラインでつなぎながらの交流会となりました。
※上の写真はそのときの様子です。少し会議室が立派すぎたかもしれません。

 この年に特筆すべきだったのは、中国側の学生たちによる映像の完成度の高さです。おそらく一部にはプロの協力もあったと思われますが、それでも学生主体でここまでのクオリティを実現していたことには大きな驚きがありました。

ここでは、中国側から寄せられた3本の映像をご紹介します。

華僑大学《祈風》

 華僑大学は中国・福建省泉州市に位置する大学で、その名のとおり、1960年に海外に住む華僑の子弟の教育を目的として設立されました。現在でも、香港、マカオ、マレーシアなど華僑が多く暮らす地域との交流が盛んで、国際的な教育機関としての役割を果たしています。

 この映像は、「祈風」というタイトルのとおり、泉州が海のシルクロードの起点だった歴史をテーマに、帆船の時代へと想いを馳せた作品です。ラオスからの留学生が登場し、海を介した交流の歴史が丁寧に語られています。歴史を映像で見ることで、私たちが知らなかった交流の一端に触れることができました。

泉州師範学院【帰路】

 泉州師範学院の作品《帰路》は、私自身が特に気に入っている作品のひとつです。一人の学生が手紙を書くという設定で、ボイスオーバーとともに映像が展開します。

 おそらく華僑の孫娘が、おじいちゃんが暮らしていた泉州のまちを訪れ、古さと新しさを体感しながら、その感想を美しい言葉で綴っていきます。開元寺の空撮や地元の食文化の描写など、観光映像としても非常に完成度の高い内容でした。

黎明(レイメイ)職業大学  上元宵【「海上シルクロード」の物語を聞きながら】

 黎明職業大学は、職業教育に力を入れており、映像制作に関する専門教育も行っている大学です。2025年には大学を訪問しましたが、設備も充実しており、非常に印象的でした。

 この映像では、泉州のローカルフードを扱うお店の歴史を追いながら、その背景にあるストーリーを紹介しています。撮影技術は完全にプロレベルで、街の歴史と「食」を結びつけたドキュメンタリー的な作品でした。「食べてみたい」と素直に思える、そんな魅力ある作品です。

2024年度

 2024年1月6日から10日まで、和歌山大学の学生たちが中国・泉州市を訪問しました。関西空港から厦門空港まで直行便で渡り、そこからはタクシーで約1時間の道のりです。

 泉州市は海のシルクロードの出発点として知られており、歴史的にも重要な都市です。そして何より、食文化の豊かさが印象的でした。上の写真は開元寺の様子です。塔が特に有名ですが、本堂も素晴らしい建築でした。

華僑大学キャンパスでの上映会

 1月7日には、華僑大学キャンパスにて上映会が開催されました。中国側からは、華僑大学、泉州師範学院、黎明職業大学、泉州幼児師範高等専門学校の4大学が参加しました。

上映会では以下の順で映像が上映されました。

1. 泉州師範学院《百鳥归巢》(百鳥帰巣)
2. 日本側《Seusutrip》
3. 華僑大学《你要和我开启泉州副本》(泉州で新たな冒険を始めよう)
4. 日本側《Kishiwada Danjiri Festival》(岸和田だんじり祭り)
5. 泉州師範学院《泉州风味蒙太奇》(泉州の風味モンタージュ)
6. 日本側《Sensyu Region Introduction Video》(泉州地域紹介動画)
7. 華僑大学《我“泉”知道》(私は泉州を知っている)
8. 日本側《Fishing Market》(漁市場)

 実は、この4本というのは、応募あった作品の中から選ばれた4本だったのです。その後、映像祭へも応募があった作品の方をいくつか紹介します。

泉州之旅, Journey to Quanzhou

 こちらは、黎明職業大学の学生の作品です。学生が丁寧に、日本語で泉州の歴史を紹介してくれているので、わかりやすく泉州の伝統芸能がわかります。

Quanzhou Know-It-All 我泉知道

 次にこちらは華僑大学の学生の作品。実は数年前、私の研究室に中国のヒップホップ文化を研究する学生がいました。四川省を中心に若者たちにも絶大な人気を誇るらしいです。その文化背景がわかる映像です。

GO TO QUANZHOU 来去泉州

 こちらの映像は、泉州幼児師範高等専門学校の学生の作品です。泉州をただ風景として紹介するのではなく、そこにさりげない哲学的な言葉を加えることによって、なぜか中国らしさを私は感じました。観光映像なのかもですが、より日常の風景が出ている、そんな映像でした。

Senshu Fish Market by Team Tomodachi

 最後に日本側の映像も紹介します。これは3名の女子学生のグループが作った映像なのですが、映像の中には、外国人、中国の学生にここが日本の泉州だよ、と伝えたい気持ちがしっかりとでていました。初めて映像を作る3人なので、どこまでできるだろう、と思いながら、映像の仕上がりを待っていたのですが、正直に言って驚きのレベル。びっくりしました。

日本国際観光映像祭 2025

日本国際観光映像祭では、この日中の観光映像による交流の特別フォーラムを開催しました。

 2025年の日本国際観光映像祭では、交流プロジェクトに関連した特別フォーラムが開催され、学生部門では以下の4作品が受賞しました。

 「GO TO QUANZHOU」の学生は来日できませんでしたが、《Quanzhou Know-It-All》の監督を務めた華僑大学の許さんが来日し、フォーラムにも登壇してくださいました。

 また、日本側の映像《Senshu Region Introduction Video》も銀賞を受賞し、学生たちの卒業式で賞状を手渡しました。

以上のように、この2年間で、中国との順調な交流が進んでいるところです。今後もその流れをなんとか継続していけるように頑張りたいと思います。

今後に向けて

 この3年間を通じて、映像による日中の学生交流が確かな成果を挙げてきました。ようやく対面での交流が再開された今、このような国際的なつながりはますます重要になっていくと感じています。
 今後もその流れをなんとか継続していけるように頑張りたいと思います。

執筆者プロフィール



木川剛志
日本国際観光映像祭総合ディレクター
和歌山大学観光学部教授
1995 年京都工芸繊維大学造形工学科入学。在学時よりアジアの建築、特にジェフリー・バワに興味を持ち、卒業後はスリランカの設計事務所に勤務する。2002 年UCL バートレット大学院修了。2012 年に福井市出身の俳優、津田寛治を監督として起用した映画「カタラズのまちで」のプロデューサーをつとめたことから映画製作に関わるようになる。監督として2017 年に短編映画「替わり目」が第9 回商店街映画祭グランプリ、2021年にドキュメンタリー映画「Yokosuka1953」が東京ドキュメンタリー映画祭長編部門グランプリを受賞し、同作品は2022年から全国公開中。観光映像では須藤カンジを監督に起用しプロデューサーと撮影をつとめた「Sound of Centro」がART&TUR 国際観光映像祭でポルトガル観光誘客(都市)部門最優秀作品賞。2019 年より日本国際観光映像祭実行委員会代表、総合ディレクターをつとめている。

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