ポルトガルとスペインの国際観光映像祭

日本国際観光映像祭(Japan World’s Tourism Film Festival : JWTFF)の目的は日本の優れた観光映像に賞を贈ること、海外の優れた観光映像を日本に紹介すること、そして日本の観光映像を世界に紹介することです。

観光学の学者として、興味本位で2018年にポルトガルの国際観光映像祭、ART&TURに参加しました。現地で出会った各国の国際観光映像祭のディレクターたちから「日本から来たの?日本から観光映像はほとんど届かないけど、作ってるの?」と聞かれました。これではよくない、そしてJWTFFを立ち上げることにしたのです。

JWTFFは2019年に第1回が開催され、2021年にCIFFTのメンバーとなりました。メンバーとなるには、まずは既存の映画祭のディレクターに推薦してもらってCIFFTにCandidateとして登録。3名以上のCIFFT関係者による実地審査があって、そのフィードバックを解決、それをクリアしてようやくメンバーになれます。CIFFTのメンバー国際観光映像祭として自立するまで、世界各国の国際観光映像祭を参考にしてきました。特に、ポルトガルのART&TURとスペインのTerres Travel Festivalには大変お世話になりました。

ART&TURとTerres Travel Festivalは現在、観光映像を募集しています(2024年5月20日現在)。これら二つの国際観光映像祭を紹介して、それらに応募するメリットや特徴をお伝えします。

目次

ART&TUR

ART&TURはポルトガルで開催される国際観光映像祭です。CIFFTは1989年に設立された国際観光映像祭ネットワークですが、2008年からメンバーとなっている老舗国際観光映像祭です。ディレクター(映像祭の総責任者)はポルトガルの大学に所属する観光学者、フランシスコ・ディアスです。

フランシスコは日本の研究者とも交流を持っており、私も2015年以降和歌山大学に異動して観光学を進めるうちに名前を聞くようになりました。そして2018年に台湾の研究者からの紹介で、ART&TURに参加することになりました。それまでも日本で観光映像の上映会や勉強会を開催してましたが、現地で見る海外の観光映像の圧倒的な美とストーリーテリング。驚きでした。そして、観光学者、映像作家、観光協会の重鎮が熱く観光映像のあり方について語る様子。これを日本でもやりたい。そしてフランシスコと飲んで話して、彼と一緒に日本でも観光映像祭を立ち上げ、さらにはCIFFTのメンバーになろうと話に進んでいきます。フランシスコは観光映像祭のあり方、運営の仕方を手取り足取り教えてくれました。

映像祭ディレクターのフランシスコとトロフィーの「ガロ(焼けた鶏)」

現在、CIFFTを構成する映像祭は10なのですが(コロナで少し減りました。コロナ以前はJWTFF以外に14の映像祭がありました)、その中でも大学研究者がディレクターをつとめるのは、ART&TURとJWTFFだけです。そのため、他の映像祭よりは学究的なプログラムも開催されています。また、ART&TURの特徴として、フランシスコの熱い思いがあり映像祭は毎年異なった都市で開催されます。この5-6年はポルトガルの中部の都市を会場としてきました。2024年はLousãで開催されます。

映像祭に応募すると、幸運にも受賞することになった場合、授賞式の1ヶ月から2ヶ月前に映像祭から「どのような賞とは言えませんが、受賞するので授賞式に来てください」という招待がきます。これは内緒話なので(笑)ここだけにしておいてください(日本国際映像祭の場合も国際部門に関しては受賞がある場合はこっそり連絡をしていますが、国内部門ではそのような連絡はしておりません)。

ポルトガルの場合は応募費用がそれなりにすることもあって、ポルトガルまでの渡航費と会場までの国内移動は応募者が自分で手配する必要があるのですが、それ以外の現地でのホテル代や食事は映像祭が負担してくれます(JWTFFは応募費用が無料なので、ここまでは用意できません)。

会期中は、会場で観光映像が上映されたり、観光映像にまつわるシンポジウムが開催されます。また、特に海外からの参加者向けに観光ツアーも開催されます。2022年はOuremという都市で開催されて、城郭へのツアーがありました。

Ourem城へのツアー。ピンクのジャケットを着てるのはYanki教授でセルフィ好きで映像祭で有名。

また、この数年、ART&TURはEnotourism(ワイン観光)に力を入れていて、同じくCIFFT構成映像祭のクロアチアのZagreb TourFilm Festivalと連携して双方のワインの飲み比べを開催したり、昨年は日本酒を飲むイベントもあったようです(木川は去年は参加していないので、日本酒イベントはよくわかっていません)。

ワイン会の様子。かなりの量を飲むことになります。

こういうツアーやワイン会などを通じて、またゲストは同じホテルなので、朝食、昼食、夕食もみんな一緒なので映像祭の間にみんなかなり仲良くなります。各国の観光協会のスタッフ、映像作家、そして観光に関わるジャーナリストや観光機関の職員などが仲良くなるので、この縁で実際に仕事につながったりもするようです(木川もこういう場で映像の応募のお願いや、審査員探しもしています)。

映像祭のメインイベントはAwards Ceremony(授賞式)です。ART&TURの授賞式はめちゃくちゃ長いことで知られてて(笑)、もし参加されることになったら覚悟の上、ゆったりした気持ちで楽しんでください。ポルトガルの音楽や舞踊が受賞式の合間に開催され、また賞の構成も国内部門と国際部門の二つから成り立つので、体感的には5時間ぐらいの式になります。間に休憩などもあるので、その時にはいろんな種類のワインを楽しめたりもします(どんだけ飲むんだろうといつも思います)。

ART&TURのトロフィーは(年によって時々違う変化球が飛んでくることがありますが)、ポルトガルの幸運のシンボル「ガロ」です。「ガロ」は焼き焦げた鶏で、昔、無実の旅人が処刑されることとなり、私の無実の証明として焼けた鶏が鳴き出すだろう、と言ったら、ほんまに鳴いて無実が証明されたということで、ガロは幸運のシンボルとなりました(見た目はある意味グロテスクだけど)。

2018年のART&TUR。鶏頭となった木川。手前は一緒に参加した越前屋俵太さん。

授賞式のあと(ポルトガルの場合、もうこの段階で20時ぐらいなのですが)それからガラパーティです。みなさんが着飾って受賞者の健闘をお互いに称え合います。2018年の授賞式は、木川、ちゃんと和装で参加して、ガラパーティは鶏の被り物をして「I am Galo」と言って、会場で浮いていました。ポルトガルの人たちもドン引きするんだ、と感動したのを覚えています。

ART&TURの様子は、2022年に木川が参加した時のYoutubeがあります。リストにしているので、vol.1~6まで楽しんでください。

受賞作品の特徴と傾向

CIFFTメンバー映像祭の多くは「観光映像」と「CM」がメインの部門ですが、ART&TURには「ドキュメンタリー」部門もあります。ただ、受賞者にも審査員にもなった経験からいうと、ドキュメンタリー部門はかなり入賞は難しいです。応募総数に比べて受賞数がかなり少ないです。もし受賞となった場合は、映像祭の中で特別セッションが設けられたりします。ポルトガルでみんなに見てもらえる夢はかないます。ただ、ART&TURは朝から夜までの開催なので、夕食の時間や夜の時間は鑑賞者はかなり少なくなります。

一方、観光映像は特別なセッションが設定されない限り、上映後の舞台挨拶の時間はありません。しかし、上映の時間が設定されているので会場で上映されたり、屋外に設営された特設スクリーンで上映されたりします。そして、強調したいのは、CIFFTのカテゴリーに収まらない受賞が多くあるということです。

CIFFTのカテゴリーは、Destination、Product、Serviceなのですが、それ以外の映像にも積極的に賞が授与されます。また、Best EuropeやBest Asiaなど、地域性に特化した賞もあるので、場合によっては同じ映像が4冠となったりもします。まだまだ日本からの応募は少ないのでチャンスです。

まぁ、それだけ受賞数が多いので、授賞式は長くなっているのですが。

応募は、ちょっと期日が延長されて、2024年7月15日まで。
応募費用は、今日のレートでいうと、14,772円でした。
大体 90ユーロなんですが、円安で毎年高くなっているようにも感じます。

応募はFilmfreewayを通してできます。

Terres Travel Festival

次に紹介する映像祭はスペインの映像祭、Terres Travel Festivalです。こちらはドキュメンタリー作家でもあるサンティ・バルデペレスがディレクターをつとめる映像祭です。

Terres Travel FestivalはART&TURとは違って、毎年開催地は固定されています。サンティの故郷でもあるスペインのカタロニア地方にあるTortosaです。バルセロナから、バスでも電車でも2時間ちょっとで行けます。

ただ、電車には少し注意をしてください。2019年に参加した時は、行きは電車で向かったのですが、乗る時にガタイの大きいおっさんが笑顔でスーツケースを積み込むのを手伝ってくれました。これは!とやな予感がしたんで、自分のポケットに手を入れると、そのおっさんの手を握ることになってしまいました。気まずい空間。おっさんはすぐに電車から逃げるように降りて行きましたが(笑)。こんな不測の出会いもあるので、気をつけてください。

参加者にワインを振る舞うサンティ

Terres Travel Festivalが開催されるトルトサは古代ローマ時代にまでさかのぼることができる歴史あふれる街です。一時期はイスラム教徒の都市となっていた歴史もあり、街自体が世界遺産のようなところです。映像祭はこの街のなかで1週間ぐらいの会期で開催され、日によっては教会や歴史的建造物の内部で上映会が行われます。観光映像の受賞者として参加した人はそのうちの2〜3日のメインプログラムの日だけとなりますが、その前後もは市民向けにドキュメンタリー映画を中心に上映されます。

トルトサの街並み
エクスカーションで船に乗る
1966年に落成した「エブロ川戦没者記念碑」

やはり、スペイン。これはポルトガルとこの点は共通するのですが、映像祭ではめっちゃワインを飲むことになります。ランチタイムからワインです。めっちゃ飲みます。なので、ランチタイムもディナーも非常に長い時間になります。ラテンの雰囲気の中、本当にいろいろな方々と観光について語ることができます。ご存知のようにスペインはフランスと毎年、観光客数世界一を争う観光先進国です。ユネスコや世界観光機関がスペインにあったりするので、普通にワインを飲んで談笑してると、一緒に飲んでる人がユネスコの高官だったりします。世界の観光関係の人たちと知り合いになるには本当にいい映像祭です。

受賞作品の特徴と傾向

サンティがドキュメンタリー作家であることもあるのでしょう、Terres Travel Festivalではドキュメンタリーの賞が豊富です。また、2021年は、拙作「Yokosuka1953」も最優秀エスノグラフィ&ソサエティ賞をいただきました。こんな感じでドキュメンタリーの映像の内容に合わせて嬉しい名前で賞が授与されるのがこの映像祭です。もし内容が合致するようであれば、Terresはドキュメンタリー部門での応募をお勧めします。

応募締め切りは、2024年5月30日です(時差でもうちょいいけるかもですが)。
応募費用は、15,641円です。(Filmfreewayだともう少し安くなる方法もあります。)

プレスリリースの準備も忘れずに

世界の観光映像祭はみなさまの日本からの観光映像を待っています。もし、映像祭への招待が来たとしたならば受賞があるということです。その時はどんな賞だろうと悩む前に、渡航前に受賞後すぐに日本の新聞社へプレスリリースができるように準備を忘れないでください。

2022年のART&TURで始めて日本チームが優勝したところ

JWTFFもCIFFTの指導の下(笑)、授賞式のその晩に、受賞シーンの写真をホームページに掲載しています。これはプレスリリースに使うためなのです。なので、映像祭が終わった次の日には、各国で受賞ニュースにその写真が使われて掲載されています。

映像祭の意味は、観光映像に力を与えることです。JWTFFでの受賞ももちろんメディアバリューはあるのですが、やはり日本の観光映像が世界の観光映像祭で受賞したことは大きなニュースになりますし、当該の観光地、その地の住民にとって誇らしいニュースになります。事前に準備してから渡航してください。

ポルトガル、スペインへのご応募お願いします。もし、わからないこととかあれば、JWTFFでもサポートいたします。

執筆者プロフィール

木川剛志

日本国際観光映像祭総合ディレクター
和歌山大学観光学部教授

1995 年京都工芸繊維大学造形工学科入学。在学時よりアジアの建築、特にジェフリー・バワに興味を持ち、卒業後はスリランカの設計事務所に勤務する。2002 年UCL バートレット大学院修了。2012 年に福井市出身の俳優、津田寛治を監督として起用した映画「カタラズのまちで」のプロデューサーをつとめたことから映画製作に関わるようになる。監督として2017 年に短編映画「替わり目」が第9 回商店街映画祭グランプリ、2020 年にドキュメンタリー「Yokosuka1953」がReykjavikVisions Film Festival 最優秀長編ドキュメンタリー映画賞、Vesuvius International Film Festivalにて最優秀ドキュメンタリー脚本賞などを受賞。観光映像では須藤カンジを監督に起用しプロデューサーと撮影をつとめた「Sound of Centro」がART&TUR 国際観光映像祭でポルトガル観光誘客(都市)部門最優秀作品賞。2019 年より日本国際観光映像祭実行委員会代表、総合ディレクターをつとめている。

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