第5回日本国際観光映像祭の審査と、これからの流れ

国際観光映像祭とは

日頃から、日本国際観光映像祭、Japan World’s Tourism Film Festival (JWTFF)の活動へのご理解、応援、ありがとうございます。映像祭の総合ディレクター、実行委員会の代表をつとめる、木川剛志です。

第5回となる今年の映像祭には、国内から132本、海外から1286本の応募がありました。JWTFFでは、国際部門、アジア部門、日本部門の三つの部門にてグランプリを競います。アジア部門では日本を除くアジア各国からの応募映像を対象としています。

JWTFFはCIFFTの正式メンバーです。CIFFTは国際観光映像ネットワークであり、1989年から続いています。このネットワークでは観光映像のあり方を常に議論し、そして素晴らしい映像に賞を与えてきました。観光映像をカテゴリーに分け、それぞれのカテゴリーごとに1位から3位をつけていました。今年からは少し制度が変わり、GoldとSilverを映像祭の裁量で選んで授与することとなっています。

  • Tourism Destinations Cities (観光誘客プロモーション、都市観光)
  • Tourism Destinations Regions(観光誘客プロモーション、地域)
  • Tourism Destinations Countries(観光誘客プロモーション、国)
  • Tourism Products (観光資源、観光体験に関わるイベントやガストロノミーなども)
  • Tourism Services (観光体験を提供する施設や手段、ホテルや鉄道などはここに該当)
  • Independent Travel Video(自主制作のVLOGなど。2022年からランキングリストからは除外)

各国の映像祭でのグランプリや各カテゴリーのゴールドやシルバーに対して、CIFFTからポイントが付与され、それぞれの映像祭が終わるごとに世界ランキングが発表されます。

昨年の最終ランキング。各映像祭での累積ポイントでランキングが付く。

JWTFFは2023年の開幕戦となる映像祭です。そのために今年の観光映像の傾向を最も早く読み取れる映像祭として世界から注目されています。このランキングには、国際部門での受賞作が台頭となりますが、日本部門、アジア部門のグランプリにもポイントが与えられますので、世界ランキングに載ることになります。

審査の方法(審査項目)について

CIFFTでは、毎年、映像祭ディレクターが集まり、映像祭の今後のレギュレーションについて議論をしています。COVID-19後はZoomを使うようになり、ミーティングの頻度は増えています。

審査基準ですが、これは各映像祭の裁量に任されているところが多いですが、基本として、

  • IMPACT
  • Creativity
  • Style
  • Subject Matter
  • Story Telling

の5項目を、それぞれ10点満点として合計50点満点で採点します。日本国際観光映像祭では、国際部門、アジア部門はこの項目で採点しています。日本部門は、独自の視点を入れて、

  • 第一印象
  • 表現力
  • 主題
  • 物語性
  • ゴールの実現

の5項目としています。大きな違いは国際部門では「スタイル」、日本部門では「ゴールの実現」においているところです。木川は、ポルトガル、スペイン、クロアチア、トルコ、南アフリカの映像祭で審査員をつとめてきましたが、「ゴールの実現」を入れている映像祭も多いです。観光映像は、観光のための映像なので、それによって何が得られるのか、それが明確になる必要があります。特に、日本の観光映像の分野では「知名度の向上」を目的とするプロモーションが多いです。しかし、本当に大切なことは、知名度を向上させることで、何を得るか、ではないでしょうか。知名度向上は手段のはずです。しかし、手段と目的が一緒になってしまっています。

現在、日本各地の観光では、DMO、DMCを中心とした観光戦略の策定とその実行が求められています。それと連動した、ゴールを実現する映像も重要だと考え、このような項目となっています。

審査の実際(JWTFFの場合)

木川は映像祭の代表であり、運営の責任者(Director)です。そのため、映像の募集にも深く関わりますので、国際映像祭のルールとして私は審査に関わることはありません(場合によっては、Directorとして特別に出したい賞を出す権利はありますが)。なので、審査において、点数の取りまとめだけをしています。審査員の点数を見るのは、私と審査委員長だけになります。

オフィシャルセレクションとは

映像祭によって、オフィシャルセレクションの定義は異なりますが、JWTFFは日本の観光映像の向上、世界に届けることを目的としている、またキュレーションサイトとして、良い観光映像を見たい、という方が映像を探しに来れるサイトを作りたいと考えているので、オフィシャルセレクションとは、私たちが推薦できる映像、ということです。具体的には50点満点で30点以上のものを原則として、オフィシャルセレクションに選びます。

ただ、これだけでは視点が不足します。各映像は3人以上の審査員が見ることとなっていますが、審査員によって特性が違います。30点をオフィシャルセレクションの基準ということは示していますが、実際には満点近い点数と30点を大きく下回る点数をつけるなど、ギャップが激しい方。ほぼ30点前後の点数で数点の違いだけの方。全部、高いもしくは低いなど。これらを平均した点数では、時に重要な映像が、平均点では低くなり、埋もれてしまいます。そこで、それぞれの審査員のトップ20%だけを抽出する、標準偏差をかける、などして、それらを加味して選んでいます。

たとえば、点数を辛い目につける審査員が満点をつけた観光映像があります。他の方が低くても、こういう映像には、誰かの心に響く何かがあるはずです。こういう映像を見逃さないことが重要だと考えています。

ファイナリストとは

JWTFFにおいても、国際と日本ではファイナリストの意味は異なります。国際部門ではファイナリストにもポイントが授与されるので、賞に準じたものです。しかし、日本ではファイナリストとして一度、整理して、さらなる審査をつづける2段階目に進んだものと考えています。

というのは、国際基準の6カテゴリーのどこに所属するのか、日本の観光映像は非常に難しい。たとえば、日本部門ではシティプロモーション部門があります。これはシビックプライドの醸成など、内向きに向いた、つまり住民にも見て欲しい映像となりますが、ヨーロッパではこういう映像は多くはありません。ところが日本の観光映像ではこれが主流と言っても良いようなものとなっています。また、これは日本の近年の傾向ですが、ショートフィルム形式、ドキュメンタリー映像の手法を用いた観光映像が増えてきており、それらがとても素晴らしい映像で、既存のカテゴリーでは十分な評価ができない。一旦の素点を見た上で、もう一度、審査員に新たなカテゴリーで審査をしてもらう、そのような段階に進んだものがファイナリストです。

海外の映像祭からは、いくつか苦言を得ることがあります。たとえば、「なぜに観光映像のタイトルに地名が入っているんだ?」「ストーリーを反映するタイトルにすべきだ」など。また、一方で「日本の観光映像は難しかったけど、ようやく意味がわかるようになってきた」「日本人にとって桜がそんなに大切な意味をもっているのは知らなかった」など、理解も進んでいます。

私たちは、世界基準に日本の観光映像を寄せていくことを目的とはしていません。日本のスタンダードが世界に通用するように、日本の観光映像のレベルをあげていきたいと思っています。それを、みなさんと議論ながら進めていく、それが観光映像祭です。時に、不理解なクライアントとの戦いでクオリティが下がったと考えるかたもいらっしゃるでしょう。また、クライアントも、その出資者を説得するためのエビデンスがないから、無理なことをいうてることもあるでしょう。このような課題を一緒にこえていきましょう。日本のこれからの健全な観光のために。

今後の流れ

まもなく、オフィシャルセレクションの方々にはメールを送ります。ファイナリストの結果が出たこと、そして、このページのリンクを貼ったもの、そして映像祭への参加の可否を聞くメールです。プログラムも仮のものですが、発表しました。

https://jwtff.world/2023_timetable_jp/

映像祭では、各部門賞とともに、特別賞を用意しています。まずは、わかりやすいものとして、観客賞を用意しました。

「観客賞」
2023年3月12日23:59までの段階で、映像祭の映像ギャラリーで最も多い閲覧数(views)を集めた映像に日本部門「観客賞」を授与します。

最後に、点数を取りまとめた担当者として一言いうならば、日本の観光映像が多様化し、レベルが向上しているので一定の基準で審査することの限界を感じ出しました。だからこそ、審査委員長がいますので、日本国際観光映像祭の理念と委員長の感性で、世界に胸をはって発表できる結果を作っていただきたいと思います。


執筆者

木川剛志

日本国際観光映像祭総合ディレクター
和歌山大学観光学部教授

1976年京都市生まれの大津市育ち。1995 年京都工芸繊維大学造形工学科入学。在学時よりアジアの建築、特にジェフリー・バワに興味を持ち、卒業後はスリランカの設計事務所に勤務する。2002 年UCL バートレット大学院修了。2012 年に福井市出身の俳優、津田寛治を監督として起用した映画「カタラズのまちで」のプロデューサーをつとめたことから映画製作に関わるようになる。監督としては2017 年に短編映画「替わり目」が第9 回商店街映画祭グランプリ、2021 年制作ドキュメンタリー「Yokosuka1953」が東京ドキュメンタリー映画祭長編部門グランプリとなり、現在全国順次公開中。観光映像では須藤カンジを監督に起用しプロデューサーと撮影をつとめた「Sound of Centro」がART&TUR 国際観光映像祭でポルトガル観光誘客(都市)部門最優秀作品賞。2019 年より日本国際観光映像祭実行委員会代表、総合ディレクターをつとめている。

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