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地域事例 国内

2020.11.27

台湾との縁を映像に。誘客の一つの形。

COVID-19が拡大する前のお話となってしまいますが、地方自治体の観光課の方々とお話しをすると「台湾から旅行者を呼びたい」「メインのインバウンド客のターゲットは台湾からのお客さんです」と言った話が本当によく出てきます。

もちろん、台湾からの旅行者数は2019年の訪日外国人客数(JNTO調べ)では489万人であり国内第3位。重要なマーケットであることは確かなのです。それでもなぜに台湾なの?1位の中国や2位の韓国からの旅行者じゃないの?と思うこともあります。神社関係者の方々からは台湾の方だけがお賽銭を払ってくれるという声も聞いたりすることもありますが、それだけが理由とは思えません。

この辺りの研究はまた違う時に書いてみようと思いますが、今回は台湾からの旅行客を呼ぶために、台湾人をターゲットとした観光映像を紹介します。

福井県の南部に位置する美浜町。水晶浜で知られるような美しい海、福井県民の県民食へしこで知られるこの町も観光に力を入れています。ここも他の地方自治体と同様に関空や小松空港から入国する台湾人観光客になんとか美浜町まで来て欲しい。そういう思いがありました。

しかし、この思いは他の自治体と少し違いました。美浜町の「台湾からお客さんが来てほしい」の背景にはインバウンド客にもっときてほしいということだけではなく、それまでに台湾と30年以上続いてきた交流があったからなのです。美浜町と台湾新北市石門区は1988年(昭和63年)8月から姉妹都市提携を結んでいます。それから30年以上、今もお互いの中学生を相互に受け入れるホームステイ事業などの交流が続いています。そしてこの思いを観光映像として発信する事業が始まります。

ホームステイをした頃を振り返る

美浜町の観光映像はユニークなものでした。日本各地のインバウンド向け映像の多くは世界中全ての人々に向けたものか、欧米に向けたものが多く、台湾人にターゲットを絞ったものはそれほど多くはありません。それは単に繁体語を使うということではなく、台湾の人々の旅する気持ちを汲むことでした。このプロジェクトではまずは台湾で日本に行きたい人たちをオーディションで選びました。その結果選ばれたのは「女子大生のグループ」「若いカップル」そして「夫婦」の3組です。それぞれが美浜町を旅し、3つストーリーの観光映像が作られました。それぞれ1分バージョン、3分バージョン、フルバーションの3種類、合計9本の観光映像です。

その中でも「夫婦」編に私は大いに心を揺さぶられました。夫の方は新北市石門区出身。中学生だった頃に美浜町を訪れ、ホームステイをした男性です。彼が美浜を訪れる理由は、自分の妻に自分が見た日本の風景を見せてあげること。中学生の夫が初めて訪れた日本は美浜町。彼の中にある日本とは、美浜の風景だったのでしょう。美しい湖に、雪。

美浜の風景を妻に紹介する夫

夫婦の旅では、中学生の時に知り合った人々との再会など、多くのサプライズが起こります。それが演出であり、観光誘客のための仕組みであることがわかっていても、そこにリアルストーリーがあるので、深い感動が生まれます。それは一人だけが紡ぐ縁ではなく、30年以上続く日本と台湾の小さな町同士の温かい交流の縁だったのです。

夫婦の旅、「あなたとわたしの美浜感動の旅夫婦編」のフルバーションは12分あるので、Youtubeの特性から考えると全部を偶然に見る人は少ないのかも知れません。しかし、第1回日本国際観光映像祭で、この映像を手掛けた田中光敏監督がその制作背景を語ッタ上で上映すると多くの方々が感動で涙を流すこととなったのです。

目に見えた形で、観光誘客に短期的かつ直接につながるものではないのかも知れません。しかし、このような台湾と美浜の縁を映像によって可視化することによって町のブランディングにつながる観光映像であることは間違いありません。このようなきちんとした交流を相互観光につなげる仕組みがこれからはもっと求められていくように思います。

「あなたとわたしの美浜感動の旅 夫婦編」
https://www.youtube.com/watch?v=yyFSpBLMHtw

執筆者プロフィール

木川剛志

日本国際観光映像祭総合ディレクター
和歌山大学観光学部教授

1995 年京都工芸繊維大学造形工学科入学。在学時よりアジアの建築、特にジェフリー・バワに興味を持ち、卒業後はスリランカの設計事務所に勤務する。2002 年UCL バートレット大学院修了。2012 年に福井市出身の俳優、津田寛治を監督として起用した映画「カタラズのまちで」のプロデューサーをつとめたことから映画製作に関わるようになる。監督として2017 年に短編映画「替わり目」が第9 回商店街映画祭グランプリ、2020 年にドキュメンタリー「Yokosuka1953」がReykjavikVisions Film Festival 最優秀長編ドキュメンタリー映画賞、Vesuvius International Film Festivalにて最優秀ドキュメンタリー脚本賞などを受賞。観光映像では須藤カンジを監督に起用しプロデューサーと撮影をつとめた「Sound of Centro」がART&TUR 国際観光映像祭でポルトガル観光誘客(都市)部門最優秀作品賞。2019 年より日本国際観光映像祭実行委員会代表、総合ディレクターをつとめている。